２

エストニア共和国の首都タリン（Tallinn；旧称レーヴァル Reval）は，人口が50万人程のエストニア最大の都市である。ここ数年，外国人のソ連滞在に関する制限が緩和されつつあるが，目下のところエストニア国内で外国人に長期滞在が許可されるのは，タリンだけである。一方，エストニア唯一の総合大学は，タリンから東南へ180kmほど離れたタルト（Tartu ；旧称ドルパート Dorpat）にある。この人口10万人程の大学町は，事実上外国人に対して閉ざされている。

このタルトのような町に，あらゆる手段を講じて滞在許可をとって長期滞在してこそ，理想的な助手投入になるというのもひとつの考え方であろう。実際，エストニアでの滞在経験がこれまでにまったくなかったとしたら，そのような「冒険」を試みたかもしれない。しかし，タリンの知人の家に２か月間居候した1980年の秋の体験の思い出が，まだ強烈に残っていた。６か月の滞在を計画したものの，正直言って，ソ連で半年も暮らせるかどうか，100％の自信はなかった。そこで，10年来の知人が住んでいるし，いざとなればいつでも「西側脱出」のできるタリンに６か月間滞在するという，遠慮がちな計画にした。余裕ができて，タルトやソ連の他の共和国に出かけたくなったら，タリンで旅行を手配することもできないわけではないからである。

はたして６か月間もの滞在が許可されるかどうかは，実際に申請してみないかぎりまったくわからない。なにしろ，「タリン教育大学の教授のもとでエストニア語を研究したいので，６か月間のタリン滞在を許可してほしい」という希望を出して，タリン滞在が認められた資本主義国出身者がこれまでにもいるかどうかは，ソ連から「友好資本主義国」と目されるフィンランドの友人たちでさえ，答えに窮することがらなのだ。